奇界の車窓から / 捨てられないお土産はトイレに集まる件
2017.08.10
世界中の奇妙な場所を撮影し続ける写真家・佐藤健寿。ここ「奇界の車窓から」では、写真集に載せるほどでもないけど、ちょっぴり奇妙だった写真を紹介してもらいます。今回は、離島帰りの佐藤さんからLOSTみたいな離島の話と、捨てられずに困っている変わったお土産が登場します。
「但し離島は除く、と書かれてしまう島に行ってきた話」
- スミ
- 佐藤さん、離島に行っていたらしいですね?
- 佐藤
- そうなんです。トカラ列島というところに行ってまして。鹿児島と奄美大島のちょうど中間。
- スミ
- あ!そういえば、前回の記事に登場した奄美の空港の脱皮、どうでした?
- 佐藤
- あ、それがまだ実は空港行けてないんです。今回、鹿児島往復で、また来月に行く予定なので脱皮についてはもうちょっとお待ちください。
- スミ
- そうだったんですね。脱皮の楽しみは持ち越しということで。脱皮をこんなに待つ夏も珍しいですね。
- 佐藤
- 増えているのかなくなっているのか、という。
- スミ
- 来月が楽しみです。
- 佐藤
- ええ、すぐ報告します
- スミ
- 今回のトカラ列島はいかがでしたか?
- 佐藤
- そうですね、トカラ列島は2回目なんですけど、まあ、良い意味で自然しかないですね。
- スミ
- 何もない場所って、貴重ですからね。良い意味で。
- 佐藤
- 多分日本の有人島としては最後の秘境といっていいのかなと、良い意味で。
- スミ
- 良い意味で最後の秘境。惹かれますね。
- 佐藤
- カレンダーの撮影で全島巡ってるんですけど、週2便しかないフェリーを待ちながら島を順々に巡って行くんです。
- スミ
- すごい旅ですね。全部でいくつの島があるんですか?
- 佐藤
- 15くらいあって、うち人間が暮らしている島は7つです。ひとつひとつの島は人口100人にも満たないので、全体で十島村という行政区ですね。
- スミ
- 週2便だと、川渡り問題みたく旅程組むの大変そうですね。狼とヤギを一緒に渡すとヤギが食べられてしまう、みたいな。
- 佐藤
- そうなんです。あっち行くとこっち行けないとか。先にあっち行ったら島に3泊しないといけないとか。もうなんかゲームみたいなルートになってますね。実際、宝島とかそんな島の名前だし。
- スミ
- その旅程を組むアプリがあったらいいのに。
- 佐藤
- 宿泊も民家みたいなところです。夕方5時くらいには撮影も終わって特にすることもなくなるので、長い修行のような旅になりますね。
- 佐藤
- こういうフェリーにのって
- スミ
- 意外と立派なフェリーですね。
- 佐藤
- そうですね、トカラのあたりは潮流が強いので、かなり立派なフェリーじゃないと危ないらしいです。
- スミ
- 乗客って結構いるんですか?
- 佐藤
- ほとんどは島民ばかりですね。たまに観光客とかひとり旅っぽい人もいますけど。
- スミ
- 乗ってる時間ってだいたいどれくらいですか?
- 佐藤
- 島にもよりますが、鹿児島から最初の島までだいたい10時間くらいですかね。寝るしかないです。
- スミ
- ひえー! 秘境に向かう感ありますね!
- 佐藤
- で、島の景色は大体こんな感じです
- スミ
- うわっ!凄い!秘境だ!
- 佐藤
- 実際、島の影とかドラマの「LOST」っぽい感じですよ。ビーチとかほとんどなくて、岩礁ばっかりで。
- スミ
- ダーマ・イニシアティブの基地がありそう!
- 佐藤
- そう、絶対地下施設ありますね。そこで、ずっとボタン押してる人がいそうです。
- スミ
- あの岩場がパッカリ割れて。
- 佐藤
- 島ごと移動する感じで。
- スミ
- コンビニとかあるんですか?
- 佐藤
- 全くないですけど、一つの島にだけ、売店はありますね。
- スミ
- 15ある島の中に売店が1軒!
- 佐藤
- もうほとんどこのフェリーで買い出しか、届けてもらう感じみたいです。どこも自販機は一台くらいありますけど。
- スミ
- 自販機、ちゃんと補充されてましたか?
- 佐藤
- やっぱり綾鷹とか売れ筋はないですね。なんとかミルクみたいな微妙なのが残ってる感じで。暑いのでやめときました。
- スミ
- 通販とかで「離島を除く」って書かれている場所ですね、まさに。
- 佐藤
- ああ、まさに。でもフェリー降りると、一緒に荷物も降ろされるんですが、アマゾン多くてびっくりしましたね。
- スミ
- 離島に届くアマゾン!素晴らしい光景ですね。
- 佐藤
- おじいちゃんなんかも「アマゾンで買えばええ」みたいなこと言ってましたからね、良い時代です。
- スミ
- ハハハハ!アマゾンの浸透具合、凄いですね。
- 佐藤
- 離島の風情がないとも言えますけど、島民はかなり助かってるみたいです。
- スミ
- ネットでだいぶ変わったでしょうね、生活。
- 佐藤
- そうですね。基本どこの島もWIFIは使えるんですよ。だからネットに困ることはなかったですね、船に乗ってる間はダメですけど。
- スミ
- 10時間ネットなしですか!つ、つらい。
- 佐藤
- 新鮮ですよね。10時間圏外だと。ドバドバっと通知が来る海外旅行みたいな感じで。
- スミ
- カレンダーの撮影だと、最低12枚の写真を撮る感じですか? それとも日めくり?
- 佐藤
- 1月1枚です。さすがに日めくりは無理ですね(笑)。
- スミ
- 各島で1枚の計算?
- 佐藤
- いや、有人島(7島)で各島2枚で、表紙と最後のページ入れて14枚みたいな計算だったかなと。
- スミ
- 早く見たいですね。来年度ですか?
- 佐藤
- そうですね、来年のです。出来たら住さんにも送りますのでぜひ事務所にでも貼ってください。
- スミ
- ありがとうございます! 大変な思いをして移動した佐藤さんの気持ちを写真の行間に感じながら過ごします。
- 佐藤
- ありがとうございます(笑)
「捨てられないお土産コレクション NO.1 トマトの小物入れ」
- スミ
- なんですか!いきなり!
- 佐藤
- お土産って基本的にあんまり買わないんですけど、たまにもらったり、なんか買ってしまって捨てられないシリーズがありまして。
- スミ
- これは何?
- 佐藤
- 見ての通りのトマトです。
- スミ
- いやいや、見ての通りって!トマト感一切ないですよ!
- 佐藤
- そうですか?トマトちゃん、としか呼べないような…。
- スミ
- 用途は?
- 佐藤
- 頭がパカっと開いて、ごく狭いスペースの小物入れになってます。
- スミ
- 頭、開いちゃうんだ…。
- 佐藤
- です。もうこれ、10年以上家にあって、一度も使ったこともないんですが、もらいもので捨てるのも忍びなくて。
- スミ
- 誰にもらったんですか?
- 佐藤
- インドのおばあちゃんに。なんかその人の旦那さんが僕の奇界遺産という本にも載っている何も食べないで生きる聖者みたいな人がいるんですが、その人の奥さんがなぜか趣味的人形作家でお土産に渡されて。
- スミ
- 手作りなんだ…。
- 佐藤
- なんか憎めない顔だし、でも使い道ないし、よくわからない物体として家の中にずっとありますね。
- スミ
- 確かにそれは捨てられないですね。おばあちゃんの思いが詰まってそうですし。
- 佐藤
- あとはトラ柄のポーチみたいなのももらったんですが、それは行方不明になりました。
- スミ
- 実印とか入れておいたらいいのでは?
- 佐藤
- 実印!いいですね。大事なものほど適当な場所に隠すといいといいますしね。
- スミ
- インドのおばあちゃんが守ってくれますよ、きっと。
- 佐藤
- まさか10年経って極東の島国で大事に使われてるとは、このトマトも夢にも思わなかったと思います。
- スミ
- 今、こうして日の目を見ましたしね。
- 佐藤
- まさに。なんか、ありがとうございます。
- スミ
- いえいえ。
- 佐藤
- 引っ越しのたびにため息と共に持ち越してきたんですが、その甲斐がありました。
「捨てられないお土産コレクション NO.2 パプア・ニューギニアのマスク」
- スミ
- わっ!
- 佐藤
- これは、逆に欲しくて買ったものなんですけど。
- スミ
- あ、自主的に。
- 佐藤
- 見ての通り、パプアニューギニアのマッドメンのマスクですね。
- スミ
- マッドメン?
- 佐藤
- 15kgくらいあって、かなり苦労して持って帰ってきました。
- スミ
- え!15キロもある物を被るんですか!
- 佐藤
- ええ、とりあえず被れるのかなと思って被ってみたんですが、重すぎてこれで動くのは無理でしたね。
- スミ
- そりゃそうですよ! ほぼ、拷問ですよ。
- 佐藤
- で、家に持って帰ってきてしばらくどこに置こうとか今も悩んでるんですけど、あるときふと発見しまして。
- 佐藤
- 中にライトを仕込むとちょっと良い感じに
- スミ
- ハハハハハ! 怖いですって!
- スミ
- だから、怖いですって!
- 佐藤
- 日常使いにはちょっと辛いですけど、来客のときなんかにちょっと話題のタネになるかなと。
- スミ
- ちょっとすいません。そもそも、マッドメンって何ですか?
- 佐藤
- パプアって仮面の国とか言われてるんですけどその中でも一番有名な部族の仮面ですね。日本だと諸星大二郎先生が漫画にしたので有名です。
- スミ
- 悪者ですか?
- 佐藤
- いや、善も悪もないですね。一応森の精霊で、人間がつけるのは他の部族を威嚇するためです。
- スミ
- 威嚇するために15キロの物を…、大変だ!
- 佐藤
- だから踊りとかすごいスローモーションなんですよ、太極拳みたいな。
- スミ
- 被ってさらに踊る!
- 佐藤
- 踊りというか、まあ武器をもって演舞みたいな感じですけど、全身白塗りでこれを被って踊るので森の前衛舞踏みたいな感じです。
- スミ
- 悪夢みたいな光景ですね。ちなみに、いくらで買ったんですか?
- 佐藤
- 確か現地値段で8000円くらいだったような…。
- スミ
- 結構しますね。
- 佐藤
- 現地のお金でいえば相当な金額です。下手したら数ヶ月分の給料みたいな。
- スミ
- 部族の人は一家に1個みたいな感じですかね?
- 佐藤
- いえいえ、日本でいえばお神輿とかみたいな祭具なので共同体でまとめて保管してる感じです。各家庭でこれを準備してるわけじゃないです。
- スミ
- なるほど。色んな人が被るんですね。中、汗臭くないですかね?
- 佐藤
- ああ、中古はやばそうですけどね。これは新品だったので無問題でした。
「捨てられないお土産コレクション NO.3 額装されたロケットの写真」
- スミ
- これは?
- 佐藤
- これは、カザフスタンのバイコヌールというところで買ったロケットの額装写真ですね。プロトンという貨物向けロケットが神々しく額装されていたのでいいなと思って買ったんですけど、なかなか飾りどころに困りますね。
- スミ
- うん、カッコイイですけど、確かにどこに飾るか悩みますね。トイレ?
- 佐藤
- 逆に仕事机の後ろとかにあったら上昇志向な感じがしてかっこいいですよね、社長室とか。
- スミ
- それはどうでしょう? その会社、ダメっぽい感じしますが…。
- 佐藤
- そうですか? バリバリ仕事やってる感じがしませんか?
- スミ
- 何だろう? あまり写真に躍動感がないというか、いや、カッコイイとは思うんですが。シンボリック過ぎるというか…。
- 佐藤
- ああ、確かに打ち上げ感ないですね、、炎が写ってないので重い感じはあります。
- スミ
- いや、大丈夫ですって! カッコイイですよ!
- 佐藤
- やっぱりトイレですかね…。困ったお土産は大体トイレに限りますね。
- スミ
- 確かに! トイレが大変なことになってる家とかたまにありますよね。
- 佐藤
- ああ、ありますね。下北に長く住んでる人の家とか。
- スミ
- 風水の人に相談したらいい答えが帰ってくるかもですね。西にロケットの写真を飾ると金運アップとか。
- 佐藤
- うん、風水的には悪くない感じがしますね。
- スミ
- 大切になさってください。(なんでも鑑定団風)
プロフィール

名前 | 佐藤 健寿 |
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武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)など。近刊は米デジタルグローブ社と共同制作した、日本初の人工衛星写真集『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『奇界紀行』(角川学芸出版)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号〜美しき世界の不思議〜』(講談社)など。NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。トヨタ・エスティマの「Sense of Wonder」キャンペーン監修など幅広く活動。
- 佐藤健寿 THE WONDERLAND 奇界
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- https://twitter.com/x51
- https://www.instagram.com/x51/
プロフィール

名前 | 住 正徳 |
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職業 | 執筆/デザイン/映像制作屋 フリーランス |
物事を正しくみる目がないことを賞賛され、副編集長に就任。 椎間板ヘルニア、十二指腸潰瘍、いぼ痔を抱えるため繁忙期にはどれかが疼く。
- https://twitter.com/sumimachine
- https://www.instagram.com/sumimachine/