シャルダンステキプラスCM / シャルウィダンス篇&制作裏話
ステキプラスCM メイキング
シャルダンステキプラスの音楽ができるまで
シャルダンステキプラスの新作CMにミゲル君が登場している。今から5年前、リスボンの街を背に「ラララ消臭力」と歌っていたあの少年が、すっかり青年に成長している。親戚の子供の成長の早さに驚かされるのは常だがミゲル君もすごい。ちょっと見ない間に立派なイケメンに育っている。そして、今回も見事な歌声を聴かせてくれる。思わず踊りたくなるような軽快なリズムの楽曲は、CM用に書き下ろされたオリジナルソングらしいのだが、1回聞くと耳に残って仕方ない。思えばエステーのCMはいつもそうだ。使われている音楽が脳内をループしてしまい、思わず口ずさんでいる自分に気づくこともある。
あの印象的な音楽はどのようにして作っているのだろう?
クリエイティブディレクターの鹿毛さんからお話を伺った。
「コライト(Co-Write)という制作スタイルで」
今回の楽曲作成は、鹿毛さんと音楽家の宮井英俊さんとの共同作業で進められたという。最初に楽曲のイメージを鹿毛さんから宮井さんに伝え、まず上がってきたデモが次の2曲である。
- 宮井さんからのデモ1
- 宮井さんからのデモ2
これを受けた鹿毛さんは次のような感想を伝える。
「さすがプロ!
でもコード多すぎるから、少なくしようか?
プロとは思えないくらい簡単なやつ!」
我儘な子供の乱暴な意見のようにも聞こえる。だが、ここが肝要なポイントであることに僕は気付いた。耳に残るCM音楽を作るには、複雑なコード進行はいらない。それが鹿毛さんの哲学なのだろう。もしかしたら、「そんなに難しいことしてないのに…」と宮井さんは思ったかもしれない(宮井さんにお会いしたことがないのであくまでも僕の想像だが)。そこはしかし、宮井さんもプロである。鹿毛さんの意見を受けて、仮歌入りのデモを2曲作成した。仮歌で歌っている歌詞は、鹿毛さんが作った仮の歌詞である。
- 仮歌入りのデモ1
- 仮歌入りのデモ2
かなりイメージには近づいてきている。しかし、何かが違う。仮の歌詞を当てたことで別の世界観が出来上がってしまっているのでは? そう考えた鹿毛さんは、再び宮井さんに仮歌なしでの修正を依頼する。
そして出来上がったバックトラックがこれだ。
- 出来上がったバックトラック
イメージ通り! と納得する鹿毛さん。
こうしてついにバックトラックが出来上がった。
次はメロディだ。
このバックトラックに乗せるメロディを考えなくてはならない。
ここで鹿毛さんは、一旦その音楽から離れるために3日ほど時間を空ける。美味しいナポリタンを作るには、茹でた麺を一晩冷蔵庫で寝かせる必要がある、という話を聞いたことがある。鹿毛さんは耳に残る音楽を作るためにバックトラックを3日間寝かしておいたのだ。
3日目の夜、寝かしておいたバックトラックをiPadで流してみる。しかし、一向にメロディが浮かんでこない。ベッドの上でも聞き続けるがまるでダメだ。諦めた鹿毛さんはiPadを手にしたまま寝落ちしてしまう。ところが夜中の3時にふと目が覚める。
メロディが降りてきた!
慌ててiPadに向かってメロディを口ずさみ録音した。それが、次の音源だ。
- 夜中の3時に浮かんだメロディ
夜中の3時である。家人への遠慮がそのまま聞いて取れる録音ではあるが、このメロディが採用となった。
その後、鹿毛さんはコーラスなども自分の声で録音し、宮井さんと一緒に15トラックにも及ぶデモ音源を完成させる。
「ビートルズは4トラックですから、トラック数的には勝ってますよね」
と笑う鹿毛さん。トラック数で勝ち負けがつく勝負のようには思えないが、デモ音源完成までの人知れぬ努力は報われてしかるべきだとは思う。
- 完成した最終のデモ音源
このように作曲家同士がチームを作って共同で楽曲を作成するスタイルのことをコライト(Co-Write)と呼ぶらしく、今回の楽曲はまさにコライトスタイルで完成していた。
「ミゲル君への歌唱指導」
今回、ミゲル君のボーカル収録とCMの撮影はすべてポルトガルで行われた。撮影期間は2日間。限られた時間内で、ボーカル収録とCM撮影をこなさないといけない。
青年になったミゲル君
冒頭でも触れたようにすっかり青年へと成長を遂げたミゲル君であるが、今回の歌収録には1つだけ問題点があった。ミゲル君は日本語が話せないのだ。既に聞いていただいたデモ音源からも分かるように、今回の歌はほとんどが日本語の歌詞である。少ない収録時間の中でミゲル君に日本語で歌ってもらわなければならない。
鹿毛さんが歌うデモ音源を事前に送っていたとはいえ、いざボーカル収録に入ると日本語の厚い壁がミゲル君の前に立ち塞がる。
「わたしあなたのお部屋大好き」
これが最初の歌詞であるが、ミゲル君は「お部屋」という発音がうまくできない。ポルトガル語にはない発音に曲の冒頭からつまづいてしまったのだ。
単語の発音からイントネーション、感情の入れ方にいたるまで、ミゲル君の横で熱血指導する鹿毛さん。鹿毛さんの細かい指示は通訳を通さないと伝わらないため、言葉での説明を極力省いて歌ってみせている。
鹿毛さんの熱血指導
言葉が通じない者同士が1つの楽曲を完成させていく様子は見る者の心を打つ力がある。何だろう? この迫力は。
「宮井さんにも来てもらいたかったんですが予算がなくて。日本から行ったスタッフは僕も含めて誰一人音符が読めないんですよ」
と鹿毛さん。
今回の楽曲の音符
言葉は通じないし音符も読めない。しかし、前出の動画のように執念にも近い情熱さえあれば伝わってしまう。
ほんの30秒(と言ったら怒られてしまうが)の楽曲が完成するまでに、これだけの労力と執念が必要なのだ。そんな作り手たちの「思い」が電波に乗って降って来るのだ。聞く者の耳に残って当然なのかもしれない。
ちなみに、ミゲル君の妹のニコルちゃんの声が収録されたラジオCMバージョンという音源もあるので是非聞いていただきたい。
ミゲル君とニコルちゃん
この春、僕はこのラジオCMバージョンをiTunesに入れてヘビーローテションする予定である。
- ラジオCM(40秒)
可愛らしいニコルちゃんが、「ミゲル大好き、がんばれ!」とポルトガル語で言っている。曲終わりのミゲル君は、笑いながら「できないよ~」と弱音を吐いているらしい。
ライター:住 正徳
関連CM
シャルダン ステキプラスCM
CM出演者

プロフィール
名前 | Miguel (ミゲル) |
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出演CM | 消臭力 / シャルダン ステキプラス / 脱臭炭 |
生年月日 | 1998年11月21日 |
出身地 | ポルトガル出身 |
地元ポルトガルのTV番組のコンテストに出場し優勝。 その後、2枚のCDをリリース。
2011年4月に放映された「消臭力」のCMで話題を呼び、日本でも注目されている。
11月には日本デビューCD『しあわせソングス★はじめまして、ミゲルです』をユニバーサル ミュージックよりリリースし、2012年2月にカバー曲「翼をください」が映画「51(ウーイー) 世界で一番小さく生まれたパンダ」の主題歌になった。CM曲や「消臭力のうた」のリミックスを収録した「チカラにかえて」、CMで共演したT.M.Revolution 西川貴教と島谷ひとみとのユニット「T.M.H.R.」として「チカラにかえて」をリリースした。
2013年7月には、さくらまやとのユニット「MarMee」を結成し、シングル「お気軽ウッキーラッキー」をリリース。さらに、12月にはデビューアルバム「MarMee」を発売している。
CM制作スタッフリスト
- 広告会社:株式会社電通
- 制作会社:太陽企画株式会社
- クリエイティブディレクター:鹿毛康司(エステー)/篠原誠(電通)
- CMプランナー:鹿毛康司(エステー)/篠原誠(電通)
- アートディレクター:林耕平(電通)
- アカウントエグゼクティブ:高橋賢太、泉知代(電通)
- クリエイティブプロデューサー:木村千沙子(電通)
- プロデューサー:畑忍(太陽企画/Produce 2)
- プロダクションマネージャー:草柳正太(太陽企画/Produce 2)
- ディレクター:石井聡一(親子社)
- DP:Miguel Robalo
- 編集(オフライン):上條孝之
- ディレクター:石井聡一(親子社)
- 編集(オンライン):鷲谷康幸
- スタイリスト:伊藤まな美
- 通訳(ミゲル):林田富美
- コレオグラファー: Silvia CARVALHO(Dance Fusion)
- 音楽コーディネート:山田広(SoundCity)
- 作曲:宮井英俊、鹿毛康司(エステー)
- 編曲:宮井英俊、鹿毛康司(エステー)
- 作詞:かげこうじ
- レコーディングエンジニア:花島功武
- 現地プロダクション:PSP(PRODUCTION SERVICE PORTUGAL)
- 1st Local AD:Duarte GOMES
- Producer:戸松資基(Mt.MELVIL)、Patricia LINO(PSP)
- Line Producer:Carla FONSECA(PSP)
- Gaffer:Alvaro SOUSA
- Art Director:Francisco OLIVEIRA
- Stylist:Isabel QUADROS
- Make-Up & Hair Stylist:Marija PAULOVICHK
- Hair Dresser:Vasco CORREIA
- Local Translator:Yumiko HORI
- コミュニケーションプランナー:中村吉見(エステー)
- メイキング撮影:平田駿介(エステー)
- メイキング制作:平田駿介(エステー)